ラウジンガー乙 第四話 「中尉、いい月ですね」 「もうすぐ夜が明ける、あれがageっているのもあと数時間だ」 そうしてテレホタイムは終わるのだ。ラウンジも落ち着きを取り戻すのだ――今までは、今まではそう、だっただろう。 もう、もう自分は、動けない。 どこに負傷を負ったのかも分からない、敵の機銃掃射が自分の脚を薙ぎ払った時、下半身から感覚というものが消えうせた。 それ以来、か、これからもずっとか、もうこの脚は動かないかもしれない。 遠くから――いや、先までは遠くにあった足音は、着実に近づいてきている。もうすぐ傍だ、そこにアレは居るのだ。 結局、残ったのは自分らだけとなった。皆、ここに居る。だが動かない。もう二度と動かない。 もはや彼らはAAとしての形を取り戻すことはないだろう。 口惜しや、何故自分がその任を任せられなかったのか。この老兵でなく、何故未来が殺されてしまったのか。 残ったのは、自分と、あとひとりの部下だけ。 痛みはなく、突き刺すような胸の隙間だけがあった。 逝ってしまった部下達に対する詫びと、敵に屈してしまった自分の無力さに、彼の心は悲鳴を上げている。 自責の念だけは、最後の瞬間まで簡単に手に入りそうだ。 「本当に、いい月だ――」 ぼんやりと空に浮かぶ月は、もはや下がり始めていた。夜が明けていく。 その前に、この命の灯火も消えていくだろう。 「名無し三等兵、コテハン諸兄……先に靖国で待っているぞ」 モララーは呟いた。それはどこに向けられていたものか。 「お前、担当は?」 「は、機銃担当であります」 「そうか、もう残弾なんぞ気にせず景気よく射っていいぞ、どうせこれで最後だ」 その冗談に、若き機銃担当は笑んだ。痛いだろうに、死ぬほど、辛いだろうに。 強い、彼は強い、惜しい人材を失ってしまった。 モララーは胸中で頭を下げた、全て、自分のせいだと。 ――時間だけが、流れていく。 足音が近づいてくる。死神の足音が近づいてくる。 ――ああ、そこに、居る。 悪魔の上背が、琥惑的な生足が、そこに。 モララーは笑んだ。それは最期の笑みだった。 敵の足が動いていく、ゴミに等しい彼を押し潰そうと、ハイヒールのかかとが迫ってきていた。 モララーはゆっくりと両手を宙に浮かべた、その先に拳銃を握り締め、ただ真っ直ぐ上空を見上げた。 月が、浮かんでいた。 その月の下、に。 「――!!」 モララーは見た。その瞳に驚愕を浮かばせて、それを見た。 間違いなかった。 間違えるはずもなかった。 間に合ったのだ。 間に合ったのだ。 我等の切り札が。 ラウンジの最終兵器が―― 敵ロボットが吹き飛んでいく。本物のドリルハンドがボディに穴を穿っていく、 ラウジンガー乙。 守護神は降臨した。 ラウンジの反撃が、始まる。 (※)文中の台詞、軍事板の★戦艦2ちゃんねる沈没の危機!!★スレからかなり頂いてます。 ぴったしだったもんで。 |