「ラウジンガー乙 第一話」 AM3:04 深夜。 それは、起こり得るはずのない大量アクセスから始まった。 膨れ上がる転送量は留まる所を知らず、ただ為すがままに何者かの侵入を受け入れていた。 ありとあらゆる情報が交錯し、サーバーが悲鳴を上げる、上げる、上げる…… それは、だがそれは、開始の合図に過ぎなかった。 これから始まることとなる事件の、ほんの発端でしかなかった。 【ラウンジ防衛本部】 赤く点滅していくスレを見つめる。次々と、次々と、スレが落ちていく。 荒らしの手に落ちていく様を、モナーはただ見つめていた。舌打ちが残る。 「状況は?」 オペレーターに問い掛ける。慣れた手つきで――だが、畏怖によるものか、 僅かに震えたタッチタイプで――モララーは答えた。 「ヤバイです、既に42のスレがdat落ち、189のスレが荒らしによる被害を受けています。 ……前代未聞ですよ、いったいどれだけの人数が結集すれば、こんなことが……」 現存するスレの十分の一が既に落ちているという事実。それがモナーの心に暗い影を落としていた。 実に、第一報からの経過時間は僅か十五分……その短時間で、荒らしどもは42のスレを―― いや、モララーによる読み上げの合間にもさらに2のスレが――落としてみせてくれた。 こんなことが、こんなことができるような連中は。 「まさか……奴ら」 ただ一言呟かれたモナーの声は、誰にも届かないまま霧散する。胸中の中、浮かび上がった可能性。 と。 「前衛基地より入電、三時の方角より未確認の接近物体を感知……!? 荒らし、来ます!」 「オムスビめ、迎撃をしくじりやがったか」 中継カメラから映し出された映像には、見覚えのある物体が映し出されていた。 「まさか、これは――」 モララーが悲鳴に近い声を漏らした。モナーは舌打ちした、 やはり、やはり盗み出されていたのか。我々の技術が。 「ラウジンガー……!」 それは十日ほど前に遡る。 ラウンジ統合幕僚本部、その最深に存在する機密情報に、クラックされた跡が確認されるという事件があった。 異常事態にラウンジは沸き立ち、大規模な調査が開始された。 だが、その後の調査で、それはコンピュータの誤作動だと診断を下された、 何のことは無い、ただの誤作動だと。 当然だった、外部から完全に遮断され、しかも一部の人間にしかアクセスを認められていないものに、 アクセス出来るはずも無いからだ。だがその事件は、モナーの心に一抹の陰を残していた…… 「まさかそれが、現実になるとはな」 忌々しそうにモナーは呟く。ラウンジの平和を守るために作り出された合体ロボ、 だが、だがその技術が、いまやラウンジを脅かしている。いや、それどころか2chそのものすら―― 「敵ロボット、急接近! 速いです!」 「……現時点でラウンジに存在する『削除人』を全て掻き集めろ、 寝てる奴はたたき起こせ、明日が仕事だろうが構わん、無理やり連れて来い……三分後に一斉攻撃を試みる」 「了解!」 モララーの返事と共に、本部が動き始める。第一種戦闘態勢へと移行していく。 点滅する光点が、近づいてくる。その直線状にはこの基地があった。 なんとしても、なんとしてもここだけは死守せねばならない。 ラウンジに存在する全てのスレの平和は、存在そのものすら、ここに掛かっているのだ。 敗北するような訳には行かない。 「削除人、準備整いました」 「彼我距離は?」 「約、100スレです」 「90に到達したら攻撃開始だ。初撃からリミットを解除し目標をあぼーんせよ」 ……もっとも、あのロボがラウジンガーを忠実に再現したいたとすれば、無駄になるがな。 モナーは胸中でひとりごちた。大方、その予想は真実になりそうだと打算を踏みながら。 「残り5スレ、3……」 モララーが読み上げていく数値は、果たしてどちらの消滅を継げるものなのか。その十三階段は。 「2、1……」 光、が。 光がモニタを満たした。あぼーんの爆炎が、何もかもを包み込んでそして―― 「やったか?」 モララーが陳腐な台詞を吐いた。そんなもの、分かりきっている。 削除人にアレがあぼーんできる訳が無い。そんなもの、分かりきっているというのに。 モナーは奥歯を強く噛み締めた。残滓の奥から這い出てきたもの。 それは、累々と連なる削除人の死骸。 そして、164センチメートルの巨体だけが、煙を受けて佇んでいた…… 続く(かも |